『わかりやすい野球のルール』粟村哲志のブログ

『わかりやすい野球のルール』(成美堂出版)監修者である現役野球審判員のブログです
TOPスポンサー広告 ≫ 走塁妨害でサヨナラ勝ち(MLBワールドシリーズ第3戦)TOPルール解説 ≫ 走塁妨害でサヨナラ勝ち(MLBワールドシリーズ第3戦)

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告 | Comments (-) | Trackbacks (-)

走塁妨害でサヨナラ勝ち(MLBワールドシリーズ第3戦)

上原投手が登板していたこともあって、割と大きく報道されたので映像をご覧になった方も多いと思いますが、ボストンレッドソックス対セントルイスカージナルスの対戦となった今年のワールドシリーズ、その第3戦の結末はあまりにも劇的なものとなりました。

その内容もとても濃く、当事者である選手たちも、それを裁く審判団も、スタジアムで「事件」を目撃した観客も、TVで観戦していた視聴者も、とにかく息詰まる20秒間を過ごしたことと思います。

その中でも、この判定を下した審判団の動きは、実に感服させられるものでした。



状況を確認すると、得点は4対4の同点。1アウトで走者は2塁・3塁です。サヨナラの場面なので内野は前進守備を敷いており、上原投手が打者を狙い通りのセカンドゴロに打ち取ります。これを二塁手がしっかり捌いて本塁に送球、3塁走者はタッグアウトになります。その後、2塁走者が3塁を狙ったのを見た捕手が3塁に送球しますが、これがやや悪送球となり、走者と交錯した三塁手が後逸、ボールは左翼ファウル地域を転々とします。この瞬間、上原投手や内野陣はサヨナラ負けを覚悟してマウンド周辺でガックリ。

ところが、ここで「事件」が起きます。三塁手と交錯して倒れた2塁走者が、ボールの行方を確認して、立ち上がって本塁に向かおうとしたところ、目の前で倒れ込んだままの三塁手につまづいて、前方に転倒してしまいます。走者は動きの中で、すぐ体勢を立て直して本塁を目指しますが、あきらかに余分な時間を使ってしまいました。そして、ここですかさずJim Joyce三塁塁審とDana DeMuth球審がほぼ同時に三塁方向を指さして走塁妨害のシグナルを入れます。2塁走者はそのまま本塁を目指して突入しますが、外野からボールが返球され、きわどいタイミングながらあきらかにタッグアウト、ボストンがピンチをしのぎきって延長戦に突入とほとんどの人が思ったその瞬間、Dana DeMuth球審の両手が「セーフ」と広がります。

上原投手をはじめ、ボストンの選手たちが本塁に殺到し、口々に抗議を始める中、Dana DeMuth球審は三塁方向を指さしてその抗議を制します。つまり、先程の走塁妨害を認め、球審の判断で得点を認めたのです。

走塁妨害にはタイプがふたつあります。7.06項に規定されている走塁妨害のうち、(a)項はその走者に直接プレイが行われている場合の妨害で、このときは審判員が「タイム」を宣告してプレイを止め、走塁を妨げられた走者には少なくとも1個の塁が与えられます。

もうひとつの(b)項は、直接プレイが行われていなかった走者に対する妨害の規定で、この場合はとりあえずボールインプレイとしてプレイを完了させ、その後で審判員が「タイム」を宣告して、必要があれば妨害の不利益を取り除くようにします。つまり、例えば結果としてアウトになった走者をどうするか、走者に塁を余分に与えるかどうかといったことは、審判員の判断になります。

今回の判定は、このタイプ(b)の妨害になります。タイプ(b)の場合の審判員の処置としては、とりあえず妨害発生の瞬間に、その地点をポイントしておくことが大切です。いつも言うことですが、何かが発生したら、その瞬間にシグナルを出しておかないと、あとから揉め事になったときに審判員の判断を強く主張することができません。

そして、プレイが完了したら審判員の判断で走者の処置を決めるわけですが、日本のアマチュア野球では、走塁妨害が発生してタイムがかかったときは、審判団が速やかに集まって処置を協議することを指導しています。これは、妨害を見た審判が、走者の位置まで正しく見ることは難しいという考えに基づくもので、これはこれで理にかなっていると思います。しかし、日米問わず、プロ野球の世界では、原則的には妨害を取った審判が進塁や帰塁の指示までするのが普通です。判断がつかなければ協議しますが、自分で判定したことは自分で処置するのが基本だと思ってください。

今回の判定も、Dana DeMuth球審が、自分の判断で妨害を取ったのか、Jim Joyce塁審の判定に同調したのかは分かりませんが、ともかくDana DeMuth球審自身もタイプ(b)のポイントを入れてからプレイを注視していました。そして、走者と捕手のタッグのタイミングを見て、きわどいタイミングとなったので、自身の判断で「走塁を妨害されたことによってこのタイミングとなったのだから、走者に本塁を与える」と思ってセーフを出したのでしょう。もし、妨害にもかかわらずタイミングもセーフとなれば、そのままサヨナラ勝ちになりますし、逆に妨害があったにせよ、まったくアウトのタイミングであれば、本塁を与えることなくアウトにする判断もあり得るわけです。

参考までに、例えば妨害に気付いたのが三塁塁審だけで、球審は気付いていなかった場合はどうなるでしょうか。上述したように、もし結果セーフになれば、そのままにしておいて構いません。しかし、本塁がアウトになった場合は、妨害を取った審判がタイムをかけて審判団を集め、処置について協議すべきでしょう。そして、審判団の判断を発表して、「妨害があったけれども影響はなかったからアウトのまま」なのか「妨害の影響でアウトになったと判断したのでセーフに変更する」のかを決めます。

この判定について、記者会見が開かれています。出席者は左から、Dana DeMuth球審、Jim Joyce三塁塁審、Joe Torre副会長、John Hirschbeck左翼外審(クルーチーフ)です。



この中でもJim Joyce審判が述べているように、走者には進塁する権利があって、それを妨げたら走塁妨害になるわけです。また、Joe Torre副会長がルールブックを読み上げて説明していましたが、この場合は故意か故意でないかは問いません。結果として妨害になったかどうかが大切です。

過去にも、MLBの試合でダイビングキャッチを試みた内野手が横たわったままのところに走者が走ってきて、走塁妨害が宣告された例を見たことがあります。今回もそうですが、妨害を取られた方は故意ではないのにと思っても、それで走塁を妨げられてアウトになってしまっては、走者にだって不満が残ります。微妙なプレイを判定するための規則は、どちらかのチームには不満を感じさせるかもしれませんが、規則は完璧ではありません。

それにしても、この大舞台の幕切れがこんな形になるとは、まったくすごい試合でしたが、その判断を堂々と、完璧にこなした審判団には、本当に感動しました。やはりメジャーの審判は違うと思わずにはいられません。

また、抗議に出てきたものの、Dana DeMuth球審の冷静な説明を聞いて、無念の表情ながらも、それなら仕方ないと無言で引き下がったボストンのJohn Farrell監督の態度も見事でした。それからもう1人、NHKの実況中継を担当していた田中崇裕アナウンサーの説明も見事でした。走者が三塁手と交錯してつまづいたこともきちんとその場で実況し、本塁が明らかにアウトのタイミングなのにセーフの判定になったことに一瞬驚きながらも、冷静にその後の球審のしぐさを見て走塁妨害による得点だと理解して分かりやすく説明していました。もう、素晴らしい!の一言です。

これは、審判はもちろん、野球に携わる人すべてに見てもらいたいシーンでした。こんなエキサイティングな場面、めったに見られませんよ!

Comment













非公開コメントにする
Trackback

Trackback URL

プロフィール

粟村哲志

Author:粟村哲志
1975年8月4日広島県生まれ。早稲田大学卒。早大在学中に、故・西大立目永氏に師事して審判を学ぶ。リトルシニア関東連盟審判員、東京都野球連盟(JABA)審判員等を経て、2007年から国内独立リーグで活動。2007年北信越BCリーグ、2008年四国・九州アイランドリーグ、2012BCリーグ、2013~2014年ルートインBCリーグ(クルーチーフ)、2015日本女子プロ野球リーグで審判員を務める。

現在は、リトルシニア関東連盟審判部技術委員(練馬シニア所属)。NPO法人Umpire Development Corporation正会員。関東審判倶楽部(KUC)アドバイザー。東都学生軟式野球連盟嘱託審判員。

監修書に『わかりやすい野球のルール』(成美堂出版)、『バッティングパーフェクトマスター』『ピッチングパーフェクトマスター』(別冊ルール解説、新星出版社)がある。インタビューおよび寄稿に「中学野球小僧」(白夜書房)2006年7月号「実戦で役立つボーク完全解説」p114~121、2007年1月号「ぼくらの野球用具大特集」p46、2007年5月号「7つの場面で徹底理解するランナーのルール」p162~169、2008年5月号「中学球児のためのグラウンドルール&マナー講座」p114~119など。

主な出場記録は以下の通り。
【リトルシニア】
日本選手権大会(00~07、09~15)
全国選抜大会(02、04~05、07、10、13、15)
ジャイアンツカップ(01~02、06~07、09~15)
【プロアマ交流戦】
茨城ゴールデンゴールズ対NPB選抜「フューチャーズ」球審(2007.5.31 水戸市民球場)
【BCリーグ】
2007年公式戦6試合出場
2012年公式戦2試合出場
2013年公式戦37試合(うちGCS2試合)/NPB交流戦1試合/OP戦2試合出場
2014年公式戦(集計中)
【四国・九州アイランドリーグ】
2008年公式戦55試合出場/NPB交流戦2試合出場
【女子プロ野球リーグ】
2015年公式戦(集計中)

カレンダー
03 | 2018/04 | 05
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 - - - - -
FC2カウンター
天気予報

-天気予報コム- -FC2-
Amazon
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。