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『わかりやすい野球のルール』粟村哲志のブログ

『わかりやすい野球のルール』(成美堂出版)監修者である現役野球審判員のブログです
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外野フライの「落球」

 昨日の阪神-巨人12回戦(甲子園)で、最後のプレイが「レフトゴロ併殺打」だったことが話題になりました。

◇ダイジェスト映像
※問題のシーンは4:00頃から

◇試合結果
【NPB公式】http://npb.jp/scores/2018/0527/t-g-12/playbyplay.html
【スポーツナビ】https://baseball.yahoo.co.jp/npb/game/2018052702/top

◇各紙の記事
【日刊スポーツ】https://www.nikkansports.com/baseball/news/201805270000546.html
【スポニチ】https://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2018/05/27/kiji/20180527s00001173286000c.html

 プレイ自体は映像や記事を確認してもらえば大体分かると思いますが、一応おさらいしておきます。1アウト満塁から打球はレフトフライ、左翼手が捕球態勢に入って打球をグラブに収めたものの、送球動作に入る際に落球しました。打球判定のため外野にゴーアウトした三塁塁審は「ノーキャッチ」とジャッジして、かなり長い間ノーキャッチを知らせるゼスチュア(セーフの形)をしていましたが、巨人の走者は完全捕球と判断して3塁走者はタッグアップからホームイン、2塁と1塁の走者は元の塁にとどまっていました。しかし、ジャッジがノーキャッチであることに気付いた阪神守備陣は、拾ったボールを3塁、2塁と転送し、それぞれフォースアウトを取りました。選手たちが戸惑っていたためか、審判団が集まって状況を確認し、責任審判からダブルプレイで試合終了と場内に説明が行われました。

 ルールの面で注目するところは、この場合は2つのアウトがいずれもフォースアウトなので、3アウトになるより早くホームインしていった3塁走者の得点が認められないことです(規則5.08a例外)。また、グラブに収めた後での落球なので走者を生かしてしまえば左翼手に失策がつくところですが、結果的に併殺を完成したので失策とはならず、打者の記録はレフトゴロとなるところも面白いところです。

 このプレイを見て思い出したのが、私が四国・九州アイランドリーグで審判を務めていた2008年の試合でのことです。2008年8月24日に新居浜で行われた愛媛マンダリンパイレーツ対高知ファイティングドッグスの試合に、私は3塁塁審として出場していました。

◇試合結果
【四国アイランドリーグplus公式】http://www.iblj.co.jp/game/3307/

 たしか4回裏だったと思いますが、愛媛の先頭打者がレフトフライを打ちました。イージーなフライで、私は軽くゴーアウトしてキャッチのジャッジをしたと記憶しています。すると、次の打者もレフトフライを打ち上げました。今度はやや大きなフライで、私もさっきより少し頑張って走って追いかけましたが、左翼手のYAMASHIN(山本伸一)がフェンス前で追いつき、シングルハンドで捕球しました。私がそれを見て「捕ったな」と思った瞬間、YAMASHINがボールを落とし、慌てて拾い上げたのです。

 まさに、昨日の阪神・中谷将大選手と同じような動きでした。それを見た私は「捕ったのに落とした!」と思いました。その瞬間、頭をフル回転させて、捕球なのか落球なのかを考え、捕球とみなすのは無理だと判断して「ノーキャッチ」のコールをしました。

 もちろん、YAMASHIN本人は捕球だと思っているだろうと思うので、大きな声と力強いゼスチュアで「ノーキャッチ!ノーキャッチ!ノーキャッチ!」と何度も繰り返し、長い時間両手を左右に広げたままにしておきました。私のコールに気付いたYAMASHINは内野にボールを戻すと同時に私の方に駆け寄り「アワさん!捕りましたって!」と抗議してきましたが、そのときは自信をもって下したジャッジだったので、「いや、落とした!気持ちは分かるけど、落としたよ!」と撥ねつけました。

 しかし、ふと気づくと、高知の内野陣が私を取り囲んで口々に「いやー、捕ってますよ~」と言ってきます。YAMASHINも必死の形相で「気持ちは分かるんなら、捕ったでいいじゃないですか!」と抗議してきます。私は一生懸命「いや、落としたって!捕ってないって!」と返事をしながら、内心では「これだけ選手が口をそろえて言うのなら、判断が間違っていたのかもしれない」と思い始めていました。目の前で起こった事実は、目を凝らしてしっかり見つめました。しかし、そこから導くべき解釈が正しくなかったのかもしれないという不安です。

20080824新居浜1
《写真》高知FDの選手たちに抗議されているところ

 そのうち3塁ベンチから高知FDの定岡智秋監督がゆっくりやってきて、審判クルーも私から選手を引きはがしに来てくれました。強硬に抗議されるかと覚悟していたのですが、定岡監督はひとこと「落とした?」とだけ聞かれたので、私は「落としました。捕球とみなすのは無理です」と答えました。監督は「うーん」と少しだけ考えてから、「ん、分かった」と言って引き下がり、不満そうな選手たちにも守備に戻るよう、うながしました。

 実はその直後にあったボークの判定を巡って今度は定岡監督が激怒して大変だったとか、その後YAMASHINが口をきいてくれなくなったとか色々あるのですが(笑)、今回の件とは関係ないので省略します。ただ、この試合は地元放送局でテレビ中継されていて、長い間リーグのホームページにアップされていたため、後で何度も何度もその場面を見ました(現在はその動画は削除されています)。繰り返し確認した中で、打った打者自身がレフトフライだと思ってベンチに帰ろうとしていたところが映っていたのと、YAMASHINの動作を見ると、やはり捕球後の持ち替えの動作で落としているように見え、正直なところキャッチの方がよかったのかなと思う気持ちもあります。

 これはひとつの分析なんですが、例えば同じような「落球」が、内野ゴロゲッツーのピボットマンの動きだったら、これはおそらく捕球を認めてフォースアウトをひとつ取ると思います。しかし、外野手がこの「落球」をすると、みんな慌てた動作でボールを拾いに行くんです。10年前のYAMASHINもそうでしたし、昨日の中谷もそうでした。これが、審判目線では「落とした!」と思ってノーキャッチのコールにつながるのではないかと思っています。昨日の甲子園の実況アナウンサーの人も、最初は犠牲フライと思いながら、転がるボールを追いかける中谷を見て「あ!ボールを落とした!落としましたよ!」と叫んでますよね。ここの見た目がポイントなんじゃないかと思います。

 でも、アップの映像でリプレイを見ると「捕球でいいかなあ」と思いますし、同じグラウンドレベルでも選手目線では「捕球」の判断が大勢を占めるわけです。このジャッジは審判の判断によるものなので、正しいとか正しくないとかいう性質のものではありませんが、多くの人に納得してもらえるジャッジをするためには、こういったところの感覚を養っていくことが大切なのかなと思います。そういう意味では、私は10年前の新居浜で、よい経験をさせてもらいました。
 
 映像を見つけられませんでしたが、過去にMLBでも同じようなケースをノーキャッチとジャッジして揉めたのを見たことがあります。フィールド上で完全捕球かどうかを見極めるのは、洋の東西を問わず難しいようです。

20080824新居浜2
《写真》1塁塁審のボーク判定に激怒して抗議する高知FD定岡監督と審判団(真ん中が粟村)



『わかりやすい野球のルール』2018年版
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プロフィール

粟村哲志

Author:粟村哲志
1975年8月4日広島県生まれ。早稲田大学卒。早大在学中に、故・西大立目永氏に師事して審判を学ぶ。リトルシニア関東連盟審判員、東京都野球連盟(JABA)審判員等を経て、2007年から国内独立リーグで活動。2007年北信越BCリーグ、2008年四国・九州アイランドリーグ、2012BCリーグ、2013~2014年ルートインBCリーグ(クルーチーフ)、2015日本女子プロ野球リーグで審判員を務める。

現在は、リトルシニア関東連盟審判部技術委員(練馬シニア所属)。NPO法人Umpire Development Corporation正会員。関東審判倶楽部(KUC)アドバイザー。東都学生軟式野球連盟嘱託審判員。

監修書に『わかりやすい野球のルール』(成美堂出版)、『バッティングパーフェクトマスター』『ピッチングパーフェクトマスター』(別冊ルール解説、新星出版社)がある。インタビューおよび寄稿に「中学野球小僧」(白夜書房)2006年7月号「実戦で役立つボーク完全解説」p114~121、2007年1月号「ぼくらの野球用具大特集」p46、2007年5月号「7つの場面で徹底理解するランナーのルール」p162~169、2008年5月号「中学球児のためのグラウンドルール&マナー講座」p114~119など。

主な出場記録は以下の通り。
【リトルシニア】
日本選手権大会(00~07、09~15)
全国選抜大会(02、04~05、07、10、13、15)
ジャイアンツカップ(01~02、06~07、09~15)
【プロアマ交流戦】
茨城ゴールデンゴールズ対NPB選抜「フューチャーズ」球審(2007.5.31 水戸市民球場)
【BCリーグ】
2007年公式戦6試合出場
2012年公式戦2試合出場
2013年公式戦37試合(うちGCS2試合)/NPB交流戦1試合/OP戦2試合出場
2014年公式戦(集計中)
【四国・九州アイランドリーグ】
2008年公式戦55試合出場/NPB交流戦2試合出場
【女子プロ野球リーグ】
2015年公式戦(集計中)

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