メジャーリーグで「不正投球」が話題になっていますね。
4月23日(日本時間24日)のヤンキース対レッドソックスで、ヤンキースのMichael Pineda投手が、手に松ヤニ(pine tar )を塗りながら投球していたことが確認され、退場処分を受けました。
テレビの実況中継が、Pineda投手の首筋に不自然に光る「異物」を発見し、大きく映し出した直後にボストンのベンチからJohn Farrell監督が飛び出してきたということなので、裏方から情報が入ったのでしょう。抗議を受けたクルーチーフのGerry Davis球審がPineda投手のもとに行って身体検査。グラブ、ユニフォームと来て、最後に首筋の松ヤニを確認して退場宣告。Pineda投手は規則により自動的に出場停止処分となります。
公認野球規則8.02
投手は次のことを禁じられる。
(a)(1) 投手が投手板を囲む18フィートの円い場所の中で、投球する手を口または唇につけた後にボールに触れるか、投手板に触れているときに投球する手を口または唇につけること。
投手は、ボールまたは投手板に触れる前に、投球する手の指をきれいに拭かなければならない。
【例外】 天候が寒い日の試合開始前に、両チーム監督の同意があれば、審判員は、投手が手に息を吹きかけることを認めることができる。
ペナルティ 投手が本項に違反した場合には、球審はただちにボールを交換させ、投手に警告を発する。投手がさらに違反した場合には、ボールを交換する。その宣告にもかかわらず、投手が投球して、打者が安打、失策、死球、その他で一塁に達し、かつ走者が次塁に達するか、または元の塁にとどまっていた(次塁に達するまでアウトにならなかった)ときには、本項の違反とは関係なくプレイは続けられる。なお、違反を繰り返した投手は、リーグ会長から罰金が科せられる。
(2) ボール、投球する手またはグラブに唾液をつけること。
(3) ボールをグラブ、身体、着衣で摩擦すること。
(4) ボールに異物をつけること。
(5) どんな方法であっても、ボールに傷をつけること。
(6) 本項の(2)~(5)で規定されている方法で傷つけたボール、いわゆるシャインボール、スピットボール、マッドボール、あるいはエメリーボールを投球すること。
ただし、投手は素手でボールを摩擦することは許される。
ペナルティ 投手が本項(2)~(6)の各項に違反した場合、球審は次のような処置をしなければならない。
(a) 投手はただちに試合から除かれ、自動的に出場停止となる。マイナーリーグでは、自動的に10試合の出場停止となる。
(b) 球審が違反を宣告したにもかかわらずプレイが続けられたときには、攻撃側の監督は、そのプレイが終わってからただちにそのプレイを生かす旨、球審に通告することができる。ただし、打者が安打、失策、四球、死球、その他で一塁に達し、しかも他の全走者が次塁に達するか、元の塁にとどまっていた(次塁に達するまでアウトにならなかった)ときには、反則とは関係なくプレイは続けられる。
(c) (b)項の場合でも、投手の反則行為は消滅せず、(a)項の罰則は適用される。
(d) 攻撃側の監督がそのプレイを生かすことを選択しなかった場合は、球審は走者がいなければボールを宣告し、走者がいればボークとなる。
(e) 投手が各項に違反したかどうかについては、審判員が唯一の決定者である。
【原注1】 投手が本項(2)または(3)に違反しても、その投球を変化させる意図はなかったと球審が判断した場合は、本項(2)~(6)のペナルティを適用せずに警告を発することができる。しかし、投手が違反をくり返せば、球審はその投手にペナルティを科さなければならない。
【原注2】 ロジンバッグにボールが触れたときは、どんなときでも、ボールインプレイである。
雨天の場合または競技場が湿っている場合には、審判員は投手にロジンバッグを腰のポケットに入れるよう指示する。(1個のロジンバッグを交互に使用させる)
投手はこのロジンバッグを用いて、素手にロジンをつけることを許されるが、投手、野手を問わず、プレーヤーは、ロジンバッグで、ボールまたはグラブにロジンをふりかけたり、またはユニフォームのどの部分にも、これをふりかけることは許されない。
【注1】 シャインボール――ボールを摩擦してすべすべにしたもの。
スピットボール――ボールに唾液を塗ったもの。
マッドボール――ボールに泥をなすりつけたもの。
エメリーボール――ボールをサンドペーパーでザラザラにしたもの。
なお、ボールに息を吹きかけることも禁じられている。
【注2】 アマチュア野球では、本項ペナルティを適用せず、1度警告を発した後、なおこのような行為が継続されたときには、その投手を試合から除く。長い引用になってしまい申し訳ありませんが、このようにくどくどと色々な違反を書き連ねて禁止しているのは、まさに野球のルールが「判例集」だからだと言えるでしょう。アメリカでは昔から、ボールに異物をつけたり、何らかの細工をしたりして、投球に大きな変化をつけるということが普通に行われていたそうです。それを規則で禁じたときにも、スピットボールだけは、それまで行っていた投手は引退するまで行うことが認められていたというから何ともアメリカらしい話だと感じてしまいます。実際に昔の「スピッター」(スピットボールを投げる投手)の投球動作を見た人の話を読んだことがありますが、かなり念入りにベロベロ手をなめて濡らしてボールに唾液をつけていたそうで、ちょっと異様に感じたほどだったそうです。
ただ、ボールに傷をつけたり、異物をつけて大きな変化をさせることは打者に対して「ずるい」行為ですが、スピットボールがあまりとがめられなかったり、暗黙のうちに認められてきたのは、投手の方もボールをしっかりコントロールして、打者に対して良い球を投げ込みたいという気持ちがあるからだとも言われます。打者にしたって、投手が手を滑らせてボールをあらぬところに投げてしまうよりは、何か手に付けてもいから、しっかりコントロールしてほしいというのが正直なところかもしれません。
だからというわけでもないかもしれませんが、今回のPineda投手も、4月10日(日本時間11日)の同じカードの登板でも投げ手に松ヤニを仕込んでいるところがテレビで大きく映されていたものの、そのときは直後に拭きとられていたためお咎めなしになっています。また、引退した投手が細工を告白することもよくあり、ある種の文化として黙認されているように思われます。日本人は、性格的にボールを汚すことを好ましく思わないのか、昔からボールにひどい細工をする話はあまり聞きません。ただ、手が滑るというので手をなめる人は結構いて、やはり投手というのはボールのコントロールに苦労するもののようです。
唾液だけでなく、今回のように松ヤニとか、あとポピュラーなところではワセリンなど油に類するものをボールに付着させる細工は多く、これらをまとめてスピットボールと呼ぶようです。Pineda投手のように肌の色が黒いことを利用して、あんな大胆なやり方をするのは私も初めて見ましたが、帽子やユニフォーム、あるいはグラブに油をしみこませておいたりして付着させるやり方は割と一般的なようです。また、ボールに傷をつける系の細工としては、紙ヤスリや爪切りなどを隠し持つやり方と、もう一つ流行した工夫としては、ベルトのバックルの棒の部分をとがらせるなんていうのもあります。
そういう意味で、投手は異物を所持していてはいけないという厳しいルールがあります。先程引用した8.02の続きです。
(b) 投手がいかなる異物でも、身体につけたり、所持すること。
本項に違反した投手はただちに試合から除かれる。さらに、その投手は自動的に出場停止となる。マイナーリーグでは、自動的に10試合の出場停止となる。
【注】 アマチュア野球では、1度警告を発した後、なおこのような行為が継続されたときには、その投手を試合から除く。1987年の試合ですが、これは有名な例ですね。
1987年8月3日のカリフォルニアエンジェルズ対ミネソタツインズの試合で、21年目のベテランナックルボーラー、Joe Niekroが、お尻のポケットに爪やすりを入れていたのを見つかって退場になった場面です。この不正を発見した球審は、昨年引退した元クルーチーフのTim Tschida審判員。まだメジャー出場3年目、正式契約になった最初の年の出来事でした。ナックルボーラーだからといっても変化が激しすぎると疑いを持ち、身体検査を実行した決断力はさすがです。ポケットには何も入っていないことを主張するふりをしてポケットの中身をこっそり捨てようとするニークロの動作も、こうやって知っていて見るとなんとなくカワイイですね(笑)。
このルールがあるから、投手はポケットにハンカチを入れておくことも認められません。そのハンカチに油をしみこませているかもしれませんからね。もう過去の話なので蒸し返すのも何ですが、甲子園のマウンドで汗を拭く斎藤佑樹投手(早実‐早大‐日ハム)を「ハンカチ王子」などともてはやさず、退場にするのが正しい処置でした。半分冗談ですよ。あんな国民的スターを退場にしたら大変なことになります(笑)。
私の経験では、自前のロジンバッグや、暖を取るためのカイロなどをポケットに入れて登板する投手をよく見かけますが、悪意はなくてもルール違反なので気をつけましょう。マウンド上で指をなめる行為も、以前は厳しく咎められていたものが、現在はきちんと手を拭けばいいように緩和されていますが、あらぬ疑念を抱かれないよう、マウンド上の作法もきちんと身につけておきたいものです。
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